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『バカロレア幸福論』

坂本尚志(2018)星海社新書『バカロレア幸福論』

読んだキッカケ:

買ったきっかけは覚えていないほど前なんだが、確かバカロレアが話題に上がっていた時のはず。それと題名に惹かれたんだろう。
今回は積読整理のために手に取った。

評価:

私個人の好き度合い星2
★★☆☆☆

 


感想:
これは題名が悪い。
バカロレアがフランスの高校卒業試験のようなものだと理解している人間にとっては、題名を見た瞬間に「バカロレアを受けたフランスの高校生たちが考える幸福論」だと思ってしまうのではないだろうか。もしくはバカロレアを知らなかったとしても、「何かしらの幸福論」について述べられていると考える人もいるだろう。
しかしながら、そんなことは書いていない。
内容はこうだ!
「フランスの高校生が受けるバカロレアは哲学が必修なんだけど、それって他の教科に比べてもとっても難しいんだ!でも大丈夫!日本と同じように参考書があって書き方を教えてくれているよ!今日はそのバカロレアの哲学試験についての解き方を教えるね!!」
内容としては薄っぺらいので、2時間あれば読めてしまうが、それにしても良くない。

肩透かしを食らった感が否めないので、ちょっとイラついてしまった。
金返せー!!

さて、思ったことを少し。。

そもそも、この本、開いた瞬間にこの一文で始まる。
”フランス人は日本人より幸せです。”
その後で社会的な数値の比較を出し、犯罪や失業率などがフランスの方が高いのになぜフランスの方が幸せなのかという問いを投げかけてくる。
その一つの原因として「フランスの高校生が「幸福」について学ぶ」ことを挙げている。つまりここでバカロレアでの必修である哲学の話に入ってくるのだ。
そしてこう述べている。
”フランス人にとって「幸福」は、「感じる」ものであると同時に「考える」もの”なのだと。なるほどな、と思う。確かに知人のフランス人を思い出してみても、議論好きで哲学的な話題を振ると喜んで話に乗ってくるイメージが強い。この部分はとても気に入ったので、思わずメモした。そして日本人についても述べる。
”日本人は幸福を物質的な豊かさや他人との比較で考えがち”であると。
なるほど確かにそう納得できる気はする。そうか、この後フランス人の思考方法についてなんかが解説されて日本人との違いなんかが書かれていくんだろうな、実に興味深い!楽しみ!って思うような、何かこの本に対して期待を感じざるを得ない書き出しである。

え?いつの間にか参考書になったよ??幸福論どこ消えた???

これこそが、この本のミスなんじゃないかと思う。
きっと私のようにタイトルに煽られて最初の始まりに期待してズッコケた人も多いのではないだろうか。

あくまでも参考書の紹介であって、思考の構造なんかについては一切書いていない。

最近、洋画を日本の勝手な題名をつけて売り出すことが多いが、それと同じ。
内容と題名が伴っていないから、題名で釣られた人間にとってはガッカリ!もしくは「はぁ!?」ってやつ(今だに私が解せないのが『ヒューゴの不思議な発明』あれ、題名が悪)。

何度も言うけど、なんでこの題名にした!?

題名で全ての印象が決まってしまう傾向が強いと思うので、この題名では中身の印象が一気に悪くなる。もっと違う題名であればここまで評価が悪くなることは無かった。

全体的に悪いのかと言うと、そういうわけではない。
題名に引っ張られるが、「幸福論」について述べていないだけで、中身としては中高生や大学生が読めば非常に価値のある内容になっていると思う。
例えば、第2章から始まるバカロレア哲学試験における解法については、小論文や大学でいずれ書くだろう論文や就職の際のエントリーシートなどで役に立つだろう取り組み方が記されている。哲学の問題だろうと、やはり基本的には小論文の書き方になるだろうから、私たちが取り組んできただろう大学入試や推薦入試などの課題の取り組み方と似ている。
こういう取り組み方を知らない人にとっては、非常に良い方法として身になるはずだ。

また、もう一つ感じたのは、本書では一応「幸福論」をバカロレアの課題だったということで教師と生徒が議論する設定で紹介されている。その対話というのが、自分自身の考え方をまとめる手法の一つであると思う。
私も自分の中にある考え方を整理する際は、人に話すことによって広がっていた思考をまとめ上げ整理している。特に、自分が信頼している師との対話は非常に有意義なものになるので今でも何かしら困ったことがあると連絡を取っていたりする。
まさにこれはソクラテスが用いた問答法だろう。
私は指導する側でもあるので、学習指導を行う際には会話によって「無知」であることの自覚と、それから「発見」をしていく大切さというのを取り入れているつもりだ。
この本の第4章にある対話はその「問答」の大切さが表れていると思う。
高校や大学で「読書会」なんかを経験したことがある人はわかるだろうが、自分が考えた思考を披露し、その思考パターンに対し、色々な人からの意見をもらうというのはとても貴重な経験になるはずだ。そういうある種の哲学的な側面をこの本から疑似体験するというのも良いだろう。

題名さえ違っていれば、哲学の入門書や論説文の書き方として参考になる本であると思う。

結局、フランス人が日本人より幸せなのか、その答えはこの本では出ない!

参考文献として最後に哲学書の紹介やバカロレアの別の本などが紹介されているので、そちらを参考にすると、哲学やバカロレアについて知れるだろう。

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